音楽
2018年07月23日

ウェザーリポートとジャコパストリアス

ジャコパストリアスが加入したことによるウェザーリポートのサウンド変化

 

 ウェザーリポートとは1971年にマイケルデイヴィスグループに在籍していたウェインショーターとジョーザヴィニヌル(初期メンバーとしてベースのミロスラフビトウスも含める場合もある。)によってアメリカで結成されたジャズフュージョングループである。


 ウェザーリポートは当時としては珍しいエレクトリック系のサウンドをメインとしていた。1960年代後半といえば、ジャズの世界にエレクトリックサウンドが持ち込まれるようになった時代であり、その第一人者であるマイルスが在籍しているバンドとしてその特徴を持つのは当然のことだったのかもしれない。


 そして、このバンドにはいくつかのメンバー変遷があり、その過程で「黄金期」なるものが作られたことは記しておかなければならないだろう。
 ここで、その黄金期のキーパーソンとしてジャコパストリアスを紹介しよう。私見であるが、彼こそがウェザーリポートであり、彼こそがベーシストだと思っている。それほど彼と彼のサウンドが後世に残した影響とは凄まじいものなのだ。
 その人、ジャコパストリアスは1951年、アメリカのペンシルベニア州で生を受けた。そして、1987年、同国フロリダ州にて35歳でその短い生涯を終えることになる。
 アメリカの名門大学である、マイアミ大学を卒業しており、音楽だけではなく勉学にも秀でていた。
 ジャコは使用楽器に特徴がある。1960年製と1962年製のフェンダー製エレクトリックベースを使っていたと言われており、1960年に購入したベースの黒ネックをサンバーストの3トーン型である1962年製のボディに付け替えたと言われている。そして、このベースは「bass of doom」と名付けられ、俗に言う「ジャコパスモデル」と呼ばれるほどに有名なものとなっている。ちなみに現行でジャコパスモデルとして発売されているベースはフレットレスベースになるが、ジャコがベースをフレットレスに改造したのは1970年代前半のことである。
 演奏スタイルはもちろん指弾きで、基本的にはブリッジ側のピックアップ上端に親指を乗せて、指の付け根を軸として弾いていた。ソフトな音色が必要な時は少しだけ弦に触れるように演奏し、パーカッシブな演奏が必要な時は手のひらを指板に叩き付けるようなスラッピングを取っていた。


 ジャコは一つのベースであらゆる音を鳴らすことに執着しており、多彩なトーンを「持って」いた。上記したものもそれの一部であり、さらに彼の特徴として有名なものは「ピッキングハーモニクス奏法」だろう。
 これは弦に親指を置き鳴弦と同時にその親指を離すことでハーモニクスを起こす奏法で、非常に高度なものである。ウェザーリポートの「バードランド」や「Three Views Of A Secret」などでその奏法を聞くことが出来る。ジャコはこの年代にありながら、音楽をあらゆるプロセスで作り上げていった。


 ジャコがウェザーリポートに加入したのは1976年のことで、デビューはウェザーリポートとは全く関係のないところで行われた。
 1970年代半ばから頭角を表し、1975年にプログレッシロックの第一人者であるパットメセニーの初リーダー作に参加、翌年にはファーストソロアルバムとして「ジャコパストリアスの肖像」を発表し、デビューした。ウェザーリポートに加入するのはその後のこととなる。
 ジャコが加入してからウェザーリポートのサウンドは激変した。ジャコのサウンドの特徴としてはそのポップサウンドにある。前記したバードランドではピッキングハーモニクスによるメロディラインを弾いており、ウェザーリポートは徐々にオリエンタルなサウンドへ変化していった。


 1977年のヘヴィウェザーではジャコのベースソロとドラミングが炸裂するティーンタウンが収録され、一躍世界のベーシストから注目されることとなった。この時期は注目度や売り上げ的にもウェザーリポートの黄金期と呼ばれていた。
 しかし、そのウェザーリポートの黄金期も終わりが見えてくる。
 1981年にジャコパストリアスが自身のバンド結成のためウェザーリポートを脱退することとなるのだ。その頃には1970年代のようなジャズフュージョンに対しての盛り上がりがあまり見られず、混迷する時代となっていた。その混迷にウェザーリポートとて勝てず、創設者であるジョーとウェインの脱退をもって1986年に解散となることとなった。


 このように、1970年代のジャズフュージョンを牽引したウェザーリポートの黄金期はジャコによって始まりジャコによって終わった。1986年、ウェザーリポートの解散の翌年、追いかけるようにしてジャコパストリアスもその短い生涯を終えた。

 彼のサウンドに対する飽くなき執着がウェザーリポートに、そして、我々に与えた影響は凄まじく、ウェザーリポートを語る上で彼の功績を見逃すわけにはいかなかったのである。

講師 大西優司

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